「っはー!」
帰宅早々新品のベッドに倒れ込む。ついこの間借りたばかりのこの部屋がもう安心できる場所になっていた。
着替えもせずにゴロゴロと転がるジョセフの背中を白い脚が蹴る。

「せめて着替えてからにしろよ。」
「ぐえっ…いーじゃぁんちょっとくらい。」
「だーめ。お前タバコ臭い」
「えー?そう?」
起き上がって袖をすんすんと嗅ぐジョセフを見ながらシーザーが溜息をつく。

楽しみにしていた結婚式はあっという間に終わってしまった
ジョセフとの結婚が決まったのが半年前だ。それから時間をかけて式の準備やらなにやらを済ませた。一番時間がかかったのはドレス選びだっただろうとシーザーはおもいかえす。
友人のスージーQにジョセフの祖母のエリナや母のリサリサが加わってこれがいい、いやこっちもいいと気が遠くなるような時間着せ替え人形にされた。
無理だろうなぁと思いつつも途中で妥協点を見出そうとしたところスージーQに喝を入れられた
「だめよ!折角の結婚式なんだもの!とびきり綺麗にしなくっちゃあね!」
まるで自分のことのように語る彼女は楽しそうだった。思い返せば昔からどこか幼さの残るこの親友は何でも自分のことのように喜んでみたり悲しんでみたりしてくれた。

「シーザー」
思いにふけっているとふと名前を呼ばれて思考が止まる。見るとジョセフがベッドに胡座をかいておいでおいでと手を招いている。
恥ずかしさにむずむずとするのを我慢して、となりに座る。膝に座ってやらなかったのはジョセフの考えてることがお見通しだからだ。
「あれ、膝来ないの」
「明日も朝早いのに相手なんかできないしな」
「えーっちょっと位いーだろぉっ!」
「お、まえっがちょっとで済んだためしなんかないじゃないか……ちょっ重い重い!」
拗ねたように口を尖らせながら倒れ込んでくる体に押しつぶされないように踏みとどまる。ここで流されたら負けだ!
少しの間どちらも譲らずにじゃれていると腕が回されて後ろから抱きしめられる形になる
「……楽しかったね。」
「…あぁ」
静かに紡がれた言葉が今日あったことを指しているのだと理解するのに時間はかからない。
「シーザー綺麗だったぜ」
「そりゃあ時間かけて選んでもらったドレスだしな」
「いや、ドレスもだけどソレも結局はシーザーちゃんを引き立てる素材にしかならないわけよぉ」
「何言ってんだか。」
というかドレスなんて最初からそのためにあるような物じゃないかと思いつつも口にはしない。
「披露宴も楽しかった?」
「ん、あぁ。楽しかった。すごかったなアレ」
披露宴での余興を思い出してクスクスと笑う。久しぶりにあんなに笑ったんじゃないかと思うくらい楽しかった。
「……これから二人で生きてくんだな」
「そうだね。シーザーと、後後には子供なんかもできちゃったりして。」
うん、と声に出したつもりが掠れて音に成らなかった。コクリとうなずくだけになる
「俺が幸せにするからね。」
「………」
なんでもない一言にふと何かがひっかかる。
「……シーザー?」
「………ジョジョ」
腕に手をかけると簡単にほどけた。顔が見えるように座りなおす。緑色の目が瞬く
「どしたの?」
「いや、なにか引っかかって……なんだろう。」
「え、もしかして俺との結婚が嫌だった!?今更破棄!?」
「ばか!違うっ!そうじゃなくて……」
何がいけないのかとジョセフとの会話を思い返す。

これから二人で生きてくんだな。

そうだね、後後には子供なんかもできちゃったりして。

俺が幸せにするからね

「あ、」
小さく声が漏れる。そうか。そういう事か。
もう一度ジョセフの顔を見上げる。
「ジョジョ。」
「何?言っとくけど今更やっぱり無しとかはNGだからな」
「わかってる。そうじゃなくて」
なんと切りだそうかと一瞬迷って口を開く
「お前には、幸せにしてもらわない」
「あぁんッ!?」
「落ち着けって。あのな、幸せってあとから気づくもんじゃあないか」
ジョセフが目に見えて不機嫌そうに眉を寄せる。
「幸せになろうっていって、意気込んでも結局はなれないんだよ。その時は目が回るほど忙しくって疲れて疲れてそれで後からあぁ、あの時は幸せだったねって言うもんじゃないか」
「………」
「それにはやっぱりどっちかにしてもらうんじゃなくて、二人でしてくもんなんだよ。」
「………つまりシーザーは幸せになる気はあるけど俺にしてもらおうとは思わないと」
「いや、だからんーと……まぁそういうことになるけど。二人揃って幸せじゃないと嬉しくないだろ」
目の前の男の顔は不機嫌そうなまま変わらない。あぁ、余計なことを言ったんじゃないかと落ち着かない。もっとうまく伝えないと。
そう思った瞬間視界が回った。抱きしめられてそのままベッドに倒れ込んだと気づいたのは数秒あとだった
「あーっ!もう!可愛いんだからッ」
「ちょっ…苦し」
「あー、ゴメン!でも離さないぜッ!」
バシバシと胸ぐらを叩いても一向に話してくれる気配がない。さっきまでの不機嫌はどこに飛んだのか聞こえる声は上機嫌である
「そうだよなぁっ!二人揃って幸せじゃないといけねえよなっ!」
「ん、わかってくれたなら、いいから、その、離して」
「いーやー!シーザーちゃん大好きっ!」
「はな……っせてんだろうがこのスカタン!」
「ぐっ!?」
つい、鳩尾がいいところにあったおかげで拳を力任せに叩き込んでしまった。本当に偶然である。
そのままジョセフはゴロゴロと少し離れた位置に転がって悶え苦しんでいる。それを見てしまったと後悔した
「いや、ごめん………」
「この……鬼嫁マジ……」
「だってぇ…」
言い訳もできないまま罪悪感にもやもやとしながら黙っていると手を握られた。
「シーザー、」
「ん…」
倒れ込んだままのジョセフが笑う。鳶色の髪がサラリと目にかかる
「幸せに、なろうな」
「……うん」
小さく頷いて、隣に倒れ込む。あぁきっと明日の朝は遅刻決定だろう

「私は、後ろからついてく気とかないからな。」
「えっついてきてよ」
「お前は亭主関白とかそんな柄じゃないだろ。」
「まぁ、どっちかって言うと俺がシーザーちゃん追いかけてるようなもんだしね。流石にそれは嫌だから隣にいてね」
「……わかってる。」

骨ばった指が髪を梳く。ウトウトと瞼が重くなるなかで呟いた言葉は届いているだろうか
「後ろからついていくのは、きっと置いてかれてしまうから
前を行くのは、後ろが見えなくて不安だから…だから、隣にいたらいい」
「……あぁ。幸せにするんじゃなくて、二人でならなきゃな」
「うん…だから……だから、二人で…」





頑張って、幸せになりましょう




おしまい。

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新婚なのにイチャイチャしないよねうちのジョセシーね!
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