「シーザーはジョジョが好きなんだとばっかり思ってた」
その一言が否定できなかった
そんなわけないだろうと言い切ってしまったらどうにかなったかもしれない。いや、でもきっと遅かれ早かれこうなっていたかもしれない。
結局出た言葉は縋るような、助けを求めるような一言で
「それはシーザーが見つけなくっちゃね」
そして結局叩きつけられたのは厳しい答えだった
このまま知らないでいるのもいいかもしれない。知らないまま先輩後輩であわよくば親友でそのまま俺は進学して気づいたら疎遠になって
そうしたら何事もなかったように無くなるだろう。この二ヶ月も、気の迷いもきっと泡になるのだ
それでいいと納得できたらいいのに、俺は納得できないまま悩んでいる。
そんなまま今日7月6日例年より長引いている梅雨、大雨が続く今日は文化祭前日だ
『待ちくたびれて夏が来る』
今週いっぱいは文化祭準備で通常授業がないのもあって学校中が活気でざわついていた
それは、3年生も変わらないわけで―高校生活最後の文化祭なのもあってか1番やる気があるかもしれない―シーザーはバタバタとしていた
シーザーのクラスではベタに喫茶店をやることになっていたから朝から装飾班がテーブルの設置をしてたり調理班と買出し班が集まって食材買い足しの話し合いをしている。
お祭りみたいな雰囲気が嫌いではないしむしろ好きなほうなのでこれはこれで楽しい。 だが、自分が置かれた状況下だけはどうしてもまだ飲み込めなかった
「……やっぱこれ俺がやるのか…」
「当たり前だろ〜!シーザー見てくれはいいんだから!」
「見てくれは、って何だよむかつくな!」
いつにもなく楽しそうなクラスメイトに喝を入れるがケタケタと笑われて意味がない
「でもすごい似合ってるよ!かっこいいよ!」
「うん!すっごくいい!」
「あ、ありがとう……?」
いつもなら嬉しいであろう女子からの褒め言葉も今日だけは素直に受け取れない。白い手袋のされた右手を閉じたり開いたりしてみる
「いやー…流石に接客は女子たちでいいんじゃないかな?ほら、見栄えもするし」
「女子だけに任せるってわけにゃいかんだろさすがに。」
「それに、調理班以外の男子は何もしないわけにいかないでしょ?ある程度ローテーション回すにしろ」
「まぁ、そうか…」
「今から内容かえるのもあれだしねー本部に書類だしちゃったし」
そう言われてもう回避はできないんだなと溜息をつく
誰だよメイド喫茶と執事喫茶合わせようとか言い出したやつと思ってとなりのクラスメイトに目をやるとグッと親指を立てられる。コイツか
「お前後で覚えとけよ……」
「なんだよーお前割りとこういうのノリノリかと思ってたぜ、俺は。何?なんかやりたくない理由でも?」
その言葉にグッと喉をつまらせる。
シーザーは自分の見てくれがいい事もわかっていたし、女の子にモテるのも知っている。じゃなければ自分からナンパなんてしないし、自信があるからナンパ癖がついてるのも自覚していた。きっと自分がやれば確実にウケがいいのもわかっている。
だが、今回だけはやりたくない。理由は言わずもがな知り合い二人である。
ジョセフには確実に笑われるのはわかっている。しかも死ぬほど笑われるだろうことも。だから嫌だし何よりも、認めたくはないが恋愛事情を自覚した上で会うのはなんとなく恥ずかしい
スージーQは喜んでくれるだろう。あれからことある事に絵のモデルを頼まれる。何より彼女は感情を露わにするタイプだからそれはもうキャーキャーと面白いほど反応してくれるに違いない。しかもそれを悪気もなくやるから怒るに怒れない
あぁ、こんなことならマルクもこちら側に連れ込むんだったと買出し班のマルクを恨む
「ま、とりあえずガンバローぜ、シーザー」
「……あぁ」
クラスメイトの差出した拳に若干力を込めて拳をぶつけ返す
「あ、明日は看板持って学校中歩いてもらうから!」
その一言に落胆するシーザーの横でまたクラスメイトはケタケタと笑う
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
ペタペタと絵具を塗っては乾かす作業を続けている
青、白、青蒼蒼、白
黙々と作業するに比例してピースの数は増えていく
部活の展示は終わっている。クラスの方は呼び出しがかかればいけばいい。
どうにかこれを完成させたい。完成させて、それから
ふとジャージのポケットに入れておいた携帯が震える
「もしもし、……うん…あぁすぐ行く」
短く終わらせて通話を切る。クラスからの呼び出しだ
机の上を簡単に片付けてパズルの全体図をなんとなく見る
どうにかこれを完成させたい。できたら今日中に。
完成させて、そうしたら
「…告る」
誰に言い聞かせるでもなく呟いて美術室を飛び出した
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
昼休みになると雨は一向に強まっている
クラスで試しに作った料理を昼飯に休憩を挟む
パンケーキを頬張りながらメールの新着問い合わせをしてみる。0件
朝から変わらない数字だというかここ一週間何もない。
「文化祭の準備で忙しいからしばらく会えないかもな〜(;´゚ω゚)寂しいかもしれないけど文化祭当日は遊んだげるから我慢してねンv(´∀`*v)ピース」
最後にジョセフから来たメールだ。今更敬語を使えだのなんだの言っても意味ないのはわかっているから返事はしない
「別に寂しくねえからつーか俺も忙しいしな。頑張れよ」
短文でこう返したらツレないだとか言われたが気にせず返信はしなかった
それでも、ちょくちょく連絡があるんじゃないかと思ったが意外にもなかったので真剣にやってはいるらしい。
いいことじゃないかと考える。考えるけど一度意識すると敏感になってしょうがない
なんとなく新規作成の項目を開いて本文の欄をタップする
「………」
『寂しい』と入力してから数秒見つめてアホらしくなって消そうと思った矢先に携帯が新着メールを告げるため震える
「ど、どうしたシーザー!」
「いっ、いやあ何でも!?悪かったなぁ騒いで!」
心配してくれるマルクをあしらいながら落ちたペットボトルを拾い上げてもう一度携帯のディスプレイに目をやる
[新着メール:1件]
これでメルマガだったら即効解約しようと思いつつ恐る恐るメールを開く
差出人ジョセフ・ジョースターの文字に心臓が跳ねるような感覚になる。もう一度タップして本文を見る
title:無題
text:午後の集会終わったら美術室まで!どーせ今日泊まり込みでしょー?
読み終えてほっと落ち着く。久々のメールに喜んでいるのを自覚している。
「マルク、午後の集会は何時からだ」
「え、あぁ17時からかな。」
「そうか……」
不思議そうな顔をする友人を横目にメール文を読み返す
もう決めた。なんだっていい。何を思われてもいいから自分の気持ちを言ってしまおう。そう決心した
―午後の集会が終わったら―
午後の集会まであと4時間。久々に顔が見れるのが待ち遠しくて残りのパンケーキを口にする
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
「俺夕飯ローソンのパスタでいいから!」
「おまっ…シーザーも手伝えよ!」
集会が終わって教室に戻ってそれを伝えてから美術室に向かう
準備で行ったり来たりしている今なら多少廊下を走っても咎められない
階段を一段飛ばしで駆け降りて渡り廊下に出る。吹き込む雨が当たるけれど気にしなかった
美術室の扉の前で立ち止まる。新しい紙に「美術部展示」と書かれている
ひと呼吸おいて整えてから扉を開ける ガラガラと音が立つ
「失礼しま…ジョジョ?」
教室内を見渡すが誰もいない。机はコの字を描くように並んでいてその上に絵やら造形が並んでいる。
一際日当たりのいい 普段ならダンボールやらいろいろとおいてある出窓に絵の部分が外になるように立てかけてあるものを見つける
「……?」
気になってなんとなく手にしようとしたその時廊下をバタバタと走る音が聞こえて振り返る
「……っだー!シーザー速ぇーよ来るの!」
「お前…どうしたその腕すごいぞ」
教室からシーザー同様走ってきたであろうジョセフは息を整えようとぜえぜえとしている。汗かとも思ったが濡れているのは雨らしい
右腕も左腕も絵の具がついていて、混ざりあっているため元が何色なのかわからない。
「え?あぁ、これね。うちのクラスお化け屋敷やるんだけどさ、内装の着色とかメイクの試しやってるうちに色確かめるだけに紙使うのもったいなくて途中から腕にペタペタとねン」
「……はぁ」
何も変わっていない本人に安堵の溜息が出る。
「シーザーちゃんお久しぶり!」
「一週間だけだろ、スカタン」
「それでも会えないのは寂しくなァい?」
「全然」
「もぅツレないんだから」
冗談をいいつつ教室に足を踏み入れたジョセフはそのまま俺の横を通り過ぎて出窓に向かう。
さっきのパネルを手にとっているがこの角度からではそれが何なのかわからない
「お、乾いてるな。」
「なんだよそれ」
「んー?お楽しみ」
悪戯を思いついた子供のように笑って振り返るがパネルは後ろに隠したままで見せようとしない
「シーザーありがとな」
「何が」
「いきなりこんな見ず知らずの下級生のためにモデルなんかやったりしてくれちゃって」
「な、」
「しかもそのあとも看病までしてくれるし、俺の絵が好きとか言ってくれて」
意味がわからないまま話を進められるがそれを止める術がわからない
「最初は仲良くなれてよかったーとな思ってたんだけどよ、なんか最近思っちゃってさ」
「……」
なんだか聞きたくない。落ち着かない
「友達とかそういうんじゃねえなって、それで」
「お断りだ」
「え」
その先が聞きたくなくて言葉を吐く。そこからは自然に口にしていた
「今更、友達じゃねえとか、ふざけるなよ。思ったからどうするってんだよ。俺はなぁ!友達やめる気なんてないしそもそも俺はお前のこと」
「ちょっとシーザーちゃん勘違いしてない?」
「は?」
間抜けな返答をする。ジョセフは笑いをこらえるような困ったような顔をしている
「俺友達やめるとか言ってないよね?」
「え、あー…え?」
もしかして俺は今すごく恥ずかしい?
急に顔に熱が集まるのがわかる。墓穴を掘った気がする
「お、お前が紛らわしい言い方するからだろうが!」
「俺のせい!?その点で言ったらシーザーちゃんのせいで何言おうとしたか忘れてたんですけど?!」
「そんなの自業自得だろうがこのバカ!」
「自分のことは棚に上げるのかよ!」
「っ………」
「……はぁ」
短い沈黙が終わってため息が出る。疲れきった気がする
「あのね、遠まわしな言い方した俺が悪かったんだけどさもう少し落ち着いて話聞いてくれない?」
「悪い…」
「うん。飲み込みの早い子にはこれあげちゃう」
そう言って何かを渡されたからふと見てみると一枚のパズルだった。大きさ、色からしてなんとなく見覚えがある。
「これ」
「そ、ミルクパズル完成したの…あ、もうミルクじゃないけどな」
「じゃなくてこれ、展示するんじゃなかったのか」
「途中で気が変わった。シーザーにお礼しようと思って」
そう言われてもう一度パズルを見る
あの時思ったとおりに絵の半分は青空だった。青い空と白い雲が浮いていて絵の下部分は黄色いひまわり畑が一面に広がっている
その眩しさを写し込むようなシャボン玉がいくつかフワフワと浮いている絵だ
全部、好きなもの
「結局この前の飯も行けなかったし、俺の絵が好きとか言ってくれちゃうから?そのくらいの大きさなら邪魔にならねーかなと思って」
「そう、か……綺麗だな」
「喜んでもらえた?」
「…ありがとう」
「好き」
唐突に聞こえた言葉に耳を疑う。はっとジョセフに目を向けると真っ直ぐに向けられた瞳は光を微かに反射してキラキラと光っている
「シーザーが、好き」
「……」
「友達じゃねえなって思って、じゃあなんだろうって考えたらその答えが出ました。」
「…」
「で、そういえばさっきシーザーは何をいいかけたわけ?」
そう言われて先程の言葉を思い出す
―そもそも俺はお前のこと―
「……い、いや、聞かなくてもいいと思うぜ」
「えぇ〜?気になっちゃうなぁ」
ニヤニヤとしているジョセフをキッと睨んでやる。コイツわかってやってやがる
「お前と同じだから言うまでもねーよ 」
「シーザーちゃーん?」
「……あぁもう!」
ビッと人差し指を目の前に突き出して半ば吐き捨てるように
「お前のこと好きだっつってんだよ!わかったかこのバカ!」
「もうちょっと可愛くできないわけ!」
「してやる価値もねーな!」
「チクショーッ!可愛くねぇぜっ!」
「……っふ」
「あ、笑った」
大事な場面なのになんとなくおかしくなって笑う
うるせぇと軽く脇腹を肘で殴る
「…シーザーのクラスは何やるの?」
「メイド喫茶と執事喫茶」
「うっわ何それ超楽しそう」
「来んなよ絶対」
「いーや行くね。ついでに写真と握手でもせがもうかね」
「それやったら出禁な」
「別れるとか言わないあたり好きよ」
「…お前のクラスはお化け屋敷だったな」
「そ、内装もメイクも力入れたから怖いこと間違いないぜ」
「そりゃ楽しみだなぁ」
なんとなく隣に並んで窓の外を見る。雨は止んで雲の切れ間から光がさしている
「文化祭が終わって試験も終われば夏休みね」
「そうだな」
「海と祭りと花火がしたい!」
「はいはい。勉強もな」
「楽しい話するときくらいそういうのやめてね 」
「はいはい」
ムゥと拗ねているので頭をグリグリと撫で回すとうれしそうに笑ってくるから笑い返す
明日、明後日の文化祭はきっと楽しくなるだろう
夏休みも目一杯遊び倒そう。
スージーQも呼んで、マルクとマルクの彼女も巻き込んだら楽しいかもしれない。
二人で徹夜で海行ったりして…きっとそのへんは飽きるほど案を出してくれるだろう
それで、俺が知らないようなことをきっとコイツは教えてくれるのだ
見上げるとさっきよりも空が明るくなっている
7月待ちに待ったこの季節
待ちくたびれて、夏が来る
『待ちくたびれて夏が来る』-Fin-
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
とりあえずこれでジョセシー学パロシリーズ終り。
Pixivの方に後日談付きでUPしますよって。
多分こっちで見てくれてる人あんまいないと思うんですがありがとうございました!
その一言が否定できなかった
そんなわけないだろうと言い切ってしまったらどうにかなったかもしれない。いや、でもきっと遅かれ早かれこうなっていたかもしれない。
結局出た言葉は縋るような、助けを求めるような一言で
「それはシーザーが見つけなくっちゃね」
そして結局叩きつけられたのは厳しい答えだった
このまま知らないでいるのもいいかもしれない。知らないまま先輩後輩であわよくば親友でそのまま俺は進学して気づいたら疎遠になって
そうしたら何事もなかったように無くなるだろう。この二ヶ月も、気の迷いもきっと泡になるのだ
それでいいと納得できたらいいのに、俺は納得できないまま悩んでいる。
そんなまま今日7月6日例年より長引いている梅雨、大雨が続く今日は文化祭前日だ
『待ちくたびれて夏が来る』
今週いっぱいは文化祭準備で通常授業がないのもあって学校中が活気でざわついていた
それは、3年生も変わらないわけで―高校生活最後の文化祭なのもあってか1番やる気があるかもしれない―シーザーはバタバタとしていた
シーザーのクラスではベタに喫茶店をやることになっていたから朝から装飾班がテーブルの設置をしてたり調理班と買出し班が集まって食材買い足しの話し合いをしている。
お祭りみたいな雰囲気が嫌いではないしむしろ好きなほうなのでこれはこれで楽しい。 だが、自分が置かれた状況下だけはどうしてもまだ飲み込めなかった
「……やっぱこれ俺がやるのか…」
「当たり前だろ〜!シーザー見てくれはいいんだから!」
「見てくれは、って何だよむかつくな!」
いつにもなく楽しそうなクラスメイトに喝を入れるがケタケタと笑われて意味がない
「でもすごい似合ってるよ!かっこいいよ!」
「うん!すっごくいい!」
「あ、ありがとう……?」
いつもなら嬉しいであろう女子からの褒め言葉も今日だけは素直に受け取れない。白い手袋のされた右手を閉じたり開いたりしてみる
「いやー…流石に接客は女子たちでいいんじゃないかな?ほら、見栄えもするし」
「女子だけに任せるってわけにゃいかんだろさすがに。」
「それに、調理班以外の男子は何もしないわけにいかないでしょ?ある程度ローテーション回すにしろ」
「まぁ、そうか…」
「今から内容かえるのもあれだしねー本部に書類だしちゃったし」
そう言われてもう回避はできないんだなと溜息をつく
誰だよメイド喫茶と執事喫茶合わせようとか言い出したやつと思ってとなりのクラスメイトに目をやるとグッと親指を立てられる。コイツか
「お前後で覚えとけよ……」
「なんだよーお前割りとこういうのノリノリかと思ってたぜ、俺は。何?なんかやりたくない理由でも?」
その言葉にグッと喉をつまらせる。
シーザーは自分の見てくれがいい事もわかっていたし、女の子にモテるのも知っている。じゃなければ自分からナンパなんてしないし、自信があるからナンパ癖がついてるのも自覚していた。きっと自分がやれば確実にウケがいいのもわかっている。
だが、今回だけはやりたくない。理由は言わずもがな知り合い二人である。
ジョセフには確実に笑われるのはわかっている。しかも死ぬほど笑われるだろうことも。だから嫌だし何よりも、認めたくはないが恋愛事情を自覚した上で会うのはなんとなく恥ずかしい
スージーQは喜んでくれるだろう。あれからことある事に絵のモデルを頼まれる。何より彼女は感情を露わにするタイプだからそれはもうキャーキャーと面白いほど反応してくれるに違いない。しかもそれを悪気もなくやるから怒るに怒れない
あぁ、こんなことならマルクもこちら側に連れ込むんだったと買出し班のマルクを恨む
「ま、とりあえずガンバローぜ、シーザー」
「……あぁ」
クラスメイトの差出した拳に若干力を込めて拳をぶつけ返す
「あ、明日は看板持って学校中歩いてもらうから!」
その一言に落胆するシーザーの横でまたクラスメイトはケタケタと笑う
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
ペタペタと絵具を塗っては乾かす作業を続けている
青、白、青蒼蒼、白
黙々と作業するに比例してピースの数は増えていく
部活の展示は終わっている。クラスの方は呼び出しがかかればいけばいい。
どうにかこれを完成させたい。完成させて、それから
ふとジャージのポケットに入れておいた携帯が震える
「もしもし、……うん…あぁすぐ行く」
短く終わらせて通話を切る。クラスからの呼び出しだ
机の上を簡単に片付けてパズルの全体図をなんとなく見る
どうにかこれを完成させたい。できたら今日中に。
完成させて、そうしたら
「…告る」
誰に言い聞かせるでもなく呟いて美術室を飛び出した
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昼休みになると雨は一向に強まっている
クラスで試しに作った料理を昼飯に休憩を挟む
パンケーキを頬張りながらメールの新着問い合わせをしてみる。0件
朝から変わらない数字だというかここ一週間何もない。
「文化祭の準備で忙しいからしばらく会えないかもな〜(;´゚ω゚)寂しいかもしれないけど文化祭当日は遊んだげるから我慢してねンv(´∀`*v)ピース」
最後にジョセフから来たメールだ。今更敬語を使えだのなんだの言っても意味ないのはわかっているから返事はしない
「別に寂しくねえからつーか俺も忙しいしな。頑張れよ」
短文でこう返したらツレないだとか言われたが気にせず返信はしなかった
それでも、ちょくちょく連絡があるんじゃないかと思ったが意外にもなかったので真剣にやってはいるらしい。
いいことじゃないかと考える。考えるけど一度意識すると敏感になってしょうがない
なんとなく新規作成の項目を開いて本文の欄をタップする
「………」
『寂しい』と入力してから数秒見つめてアホらしくなって消そうと思った矢先に携帯が新着メールを告げるため震える
「ど、どうしたシーザー!」
「いっ、いやあ何でも!?悪かったなぁ騒いで!」
心配してくれるマルクをあしらいながら落ちたペットボトルを拾い上げてもう一度携帯のディスプレイに目をやる
[新着メール:1件]
これでメルマガだったら即効解約しようと思いつつ恐る恐るメールを開く
差出人ジョセフ・ジョースターの文字に心臓が跳ねるような感覚になる。もう一度タップして本文を見る
title:無題
text:午後の集会終わったら美術室まで!どーせ今日泊まり込みでしょー?
読み終えてほっと落ち着く。久々のメールに喜んでいるのを自覚している。
「マルク、午後の集会は何時からだ」
「え、あぁ17時からかな。」
「そうか……」
不思議そうな顔をする友人を横目にメール文を読み返す
もう決めた。なんだっていい。何を思われてもいいから自分の気持ちを言ってしまおう。そう決心した
―午後の集会が終わったら―
午後の集会まであと4時間。久々に顔が見れるのが待ち遠しくて残りのパンケーキを口にする
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
「俺夕飯ローソンのパスタでいいから!」
「おまっ…シーザーも手伝えよ!」
集会が終わって教室に戻ってそれを伝えてから美術室に向かう
準備で行ったり来たりしている今なら多少廊下を走っても咎められない
階段を一段飛ばしで駆け降りて渡り廊下に出る。吹き込む雨が当たるけれど気にしなかった
美術室の扉の前で立ち止まる。新しい紙に「美術部展示」と書かれている
ひと呼吸おいて整えてから扉を開ける ガラガラと音が立つ
「失礼しま…ジョジョ?」
教室内を見渡すが誰もいない。机はコの字を描くように並んでいてその上に絵やら造形が並んでいる。
一際日当たりのいい 普段ならダンボールやらいろいろとおいてある出窓に絵の部分が外になるように立てかけてあるものを見つける
「……?」
気になってなんとなく手にしようとしたその時廊下をバタバタと走る音が聞こえて振り返る
「……っだー!シーザー速ぇーよ来るの!」
「お前…どうしたその腕すごいぞ」
教室からシーザー同様走ってきたであろうジョセフは息を整えようとぜえぜえとしている。汗かとも思ったが濡れているのは雨らしい
右腕も左腕も絵の具がついていて、混ざりあっているため元が何色なのかわからない。
「え?あぁ、これね。うちのクラスお化け屋敷やるんだけどさ、内装の着色とかメイクの試しやってるうちに色確かめるだけに紙使うのもったいなくて途中から腕にペタペタとねン」
「……はぁ」
何も変わっていない本人に安堵の溜息が出る。
「シーザーちゃんお久しぶり!」
「一週間だけだろ、スカタン」
「それでも会えないのは寂しくなァい?」
「全然」
「もぅツレないんだから」
冗談をいいつつ教室に足を踏み入れたジョセフはそのまま俺の横を通り過ぎて出窓に向かう。
さっきのパネルを手にとっているがこの角度からではそれが何なのかわからない
「お、乾いてるな。」
「なんだよそれ」
「んー?お楽しみ」
悪戯を思いついた子供のように笑って振り返るがパネルは後ろに隠したままで見せようとしない
「シーザーありがとな」
「何が」
「いきなりこんな見ず知らずの下級生のためにモデルなんかやったりしてくれちゃって」
「な、」
「しかもそのあとも看病までしてくれるし、俺の絵が好きとか言ってくれて」
意味がわからないまま話を進められるがそれを止める術がわからない
「最初は仲良くなれてよかったーとな思ってたんだけどよ、なんか最近思っちゃってさ」
「……」
なんだか聞きたくない。落ち着かない
「友達とかそういうんじゃねえなって、それで」
「お断りだ」
「え」
その先が聞きたくなくて言葉を吐く。そこからは自然に口にしていた
「今更、友達じゃねえとか、ふざけるなよ。思ったからどうするってんだよ。俺はなぁ!友達やめる気なんてないしそもそも俺はお前のこと」
「ちょっとシーザーちゃん勘違いしてない?」
「は?」
間抜けな返答をする。ジョセフは笑いをこらえるような困ったような顔をしている
「俺友達やめるとか言ってないよね?」
「え、あー…え?」
もしかして俺は今すごく恥ずかしい?
急に顔に熱が集まるのがわかる。墓穴を掘った気がする
「お、お前が紛らわしい言い方するからだろうが!」
「俺のせい!?その点で言ったらシーザーちゃんのせいで何言おうとしたか忘れてたんですけど?!」
「そんなの自業自得だろうがこのバカ!」
「自分のことは棚に上げるのかよ!」
「っ………」
「……はぁ」
短い沈黙が終わってため息が出る。疲れきった気がする
「あのね、遠まわしな言い方した俺が悪かったんだけどさもう少し落ち着いて話聞いてくれない?」
「悪い…」
「うん。飲み込みの早い子にはこれあげちゃう」
そう言って何かを渡されたからふと見てみると一枚のパズルだった。大きさ、色からしてなんとなく見覚えがある。
「これ」
「そ、ミルクパズル完成したの…あ、もうミルクじゃないけどな」
「じゃなくてこれ、展示するんじゃなかったのか」
「途中で気が変わった。シーザーにお礼しようと思って」
そう言われてもう一度パズルを見る
あの時思ったとおりに絵の半分は青空だった。青い空と白い雲が浮いていて絵の下部分は黄色いひまわり畑が一面に広がっている
その眩しさを写し込むようなシャボン玉がいくつかフワフワと浮いている絵だ
全部、好きなもの
「結局この前の飯も行けなかったし、俺の絵が好きとか言ってくれちゃうから?そのくらいの大きさなら邪魔にならねーかなと思って」
「そう、か……綺麗だな」
「喜んでもらえた?」
「…ありがとう」
「好き」
唐突に聞こえた言葉に耳を疑う。はっとジョセフに目を向けると真っ直ぐに向けられた瞳は光を微かに反射してキラキラと光っている
「シーザーが、好き」
「……」
「友達じゃねえなって思って、じゃあなんだろうって考えたらその答えが出ました。」
「…」
「で、そういえばさっきシーザーは何をいいかけたわけ?」
そう言われて先程の言葉を思い出す
―そもそも俺はお前のこと―
「……い、いや、聞かなくてもいいと思うぜ」
「えぇ〜?気になっちゃうなぁ」
ニヤニヤとしているジョセフをキッと睨んでやる。コイツわかってやってやがる
「お前と同じだから言うまでもねーよ 」
「シーザーちゃーん?」
「……あぁもう!」
ビッと人差し指を目の前に突き出して半ば吐き捨てるように
「お前のこと好きだっつってんだよ!わかったかこのバカ!」
「もうちょっと可愛くできないわけ!」
「してやる価値もねーな!」
「チクショーッ!可愛くねぇぜっ!」
「……っふ」
「あ、笑った」
大事な場面なのになんとなくおかしくなって笑う
うるせぇと軽く脇腹を肘で殴る
「…シーザーのクラスは何やるの?」
「メイド喫茶と執事喫茶」
「うっわ何それ超楽しそう」
「来んなよ絶対」
「いーや行くね。ついでに写真と握手でもせがもうかね」
「それやったら出禁な」
「別れるとか言わないあたり好きよ」
「…お前のクラスはお化け屋敷だったな」
「そ、内装もメイクも力入れたから怖いこと間違いないぜ」
「そりゃ楽しみだなぁ」
なんとなく隣に並んで窓の外を見る。雨は止んで雲の切れ間から光がさしている
「文化祭が終わって試験も終われば夏休みね」
「そうだな」
「海と祭りと花火がしたい!」
「はいはい。勉強もな」
「楽しい話するときくらいそういうのやめてね 」
「はいはい」
ムゥと拗ねているので頭をグリグリと撫で回すとうれしそうに笑ってくるから笑い返す
明日、明後日の文化祭はきっと楽しくなるだろう
夏休みも目一杯遊び倒そう。
スージーQも呼んで、マルクとマルクの彼女も巻き込んだら楽しいかもしれない。
二人で徹夜で海行ったりして…きっとそのへんは飽きるほど案を出してくれるだろう
それで、俺が知らないようなことをきっとコイツは教えてくれるのだ
見上げるとさっきよりも空が明るくなっている
7月待ちに待ったこの季節
待ちくたびれて、夏が来る
『待ちくたびれて夏が来る』-Fin-
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
とりあえずこれでジョセシー学パロシリーズ終り。
Pixivの方に後日談付きでUPしますよって。
多分こっちで見てくれてる人あんまいないと思うんですがありがとうございました!
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