シーザーという名の 幼馴染みの女の子がいた
二歳年上の彼女とは家が隣り合わせなのもあって毎日のように遊んでいた。
柔かい金髪と大きなエメラルドグリーンの瞳と目の下の痣がチャームポイントの活発で男勝りな女の子だった

初めて違和感を感じたのは多分彼女が小学6年 俺が四年生の時だ
少しずつ女の子らしくなってショートカットだった髪も肩までゆるゆるとカールしながらのびていた
男の子と混ざって遊んでたのに女の子と遊ぶことの方が増えていた。
それに対して自分はモヤモヤとしているのかと思ったが 俺とだけは遊んでくれていたのでそのことに対してのもやもやじゃないと思った

シーザーを避け始めたのは 中学にあがってからだ
3年生になったシーザーは学校で有名になるくらいには美人で女性らしくなっていた
小学校からさらに長くなった髪も静かに笑うのも俺の知らないシーザーだった
夏にシーザーが男子生徒と楽しそうに歩いているのを見て イライラしたのを覚えている
シーザーと一瞬目があったが何故かわからないけど目線をそらして気づかないふりをした。


それからは特に何もなく次にシーザーにあったのは俺、ジョセフ・ジョースターが高校卒業間近になった日のことである



目を覚ましたら飛び込んできたのは白い天井だった
体は重く動かない 聞こえるのはピッピッと規則正しくリズムを刻む電子音 かすかに薬品の匂いがする

「……ッ」
「あ、わかりますか?ここ、病院ですよ。今ご家族と先生呼んできますね」
そう言い残して看護婦はパタパタと部屋を出ていく あどけなさの残る可愛い顔をしていたな、とかどうでもいい事を考える

そうしてしばらくしないうちに廊下を走る音がして部屋に誰かが入ってくる
「ジョジョ!」
声でわかる。母親だ
「リ、リサリサ…」
「もう、こんな時くらい名前で呼ぶのやめれないのかしら!このバカ息子は!」
「まぁ。お母さん落ち着いて。…様態はどうかね」
そう言って覗きこんできたのは白髪が目立つ男だった。多分医者だろう
「……」
「とりあえず事情を説明するから。落ち着いて聞きなさい」
そう前置きしてリサリサは話し始める

学校の帰り道。 大雨の中俺は走って家路に着いた
雨がどんどんひどくなってきて前もまともに見えないくらいだった
横断歩道で信号が点滅していたがまだ間に合うと思って飛び出して、耳をつんざくようなクラクションが聞こえたところまでは覚えている
大きなトラックがブレーキが効かずに突っ込んできたところと正面衝突したらしいということだった
そのあと、トラックがスリップして巻き込まれた他の車とともに下敷きになったらしい。
奇跡的に脚の骨折だけで済んだけれど ただ左腕 左手首から下だけは切断せざるを得なかった

というのが説明である。まだ時間がたってないからなのか左手が『ない』という感覚自体がない。それでも 、『ない』のだ。
「しばらくは安静ということで入院になります。脚のリハビリも含めて半年はかかりますが…大丈夫ですか?」
「まぁ…」
大丈夫かと言われてもそうするしかないのだから選択権はないに等しい
「では、お話することがあるのでお母さん、こちらに」
「はい。 …いい?ジョジョ、いくら目が覚めたからって動いたらダメよ。」
人差し指を突きつけてそう言い残したリサリサは医師の後ろを付いて部屋をでた―残るは自分一人である

これからどうなるんだろう。 腕は義手になるんだと思うけれど高校は、大学は行けるのだろうか
…シーザーはこのことを知っているだろうか。いや、確かに未だにリサリサとシーザーの母親は仲がいいけれどさすがにまだ伝わっていないだろうか
自分から避けておいて今更会いたいだとか思ってるあたりおこがましいな。と苦笑いしたときだ。 足音が聞こえる
リサリサだろうか。いや、違うさっき出ていったばかりだし走っているのか音の感覚が狭い。ヒールの高い音がする

まさか…いや、でも

そう思っているとガラガラと遠慮もなく開けられた引き戸の方に目をやると立っていたのは今思い描いていた人物だ
昔と変わらないゆるく巻いた金色の髪と同じ色の眉は垂れ下がってハの字を描いている
エメラルドグリーンの瞳は潤っている。白い肌は朱く頬が染まっている。息が荒い。
華奢で小さな体はそこから固まって動けない

「シーザー……」
「……ッ!!」
小さくその名を呟くと息を飲んでさらに顔を歪めて見せる。そんな顔を見たかったわけじゃないのに
そんな考えは知るはずもなく カツカツと室内に入り込んでベットのすぐ横で立ち止まる
「こ…の……スカタンッ!!」
「シーザーちゃん…ここ、びょうい」
「うるさい!黙れ何もしゃべるな!お前どんだけ周りに迷惑かけたと思ってんだこのバカ!」
口の悪さは完璧に昔に戻っていた。
「リサリサさんにも!お婆さんたちにも!友達にも先生にも!…っ」
そこまで言いかけて言葉を詰まらせる。何か言おうとして、結局漏れでたのは嗚咽だった
「ごめん…」
「う、るさい……っばか」
「うん…」
頭をなでようと左手を上げかけ思い出す。
「あ…」
「ジョジョ…」
シーザーはそのまま床に崩れ落ちた。震える手だけは俺の左腕に添えて
「もう、やだ」
「…」
「死ぬんじゃないかと思った……ま、た…大事な人がまたいなくなるのかと思って……怖、くて」
つっかえながらも言葉は紡がれる
小さいときに父親を亡くしているシーザーにとっては怖かったのだと思ったのと同時に大事な人の中に自分が含まれるのが嬉しいとか考えていた。

「シー」
「好き」
声を被せて聞こえてきた言葉に耳を疑う
「好き。すき、好き好き…好き」

壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返す。

「中学のときに、私何かしたかと思ったけど、怖くて聞けなかった…離れられたのも怖かったけど本人の口から直接言われるのも怖かった」
「うん」
「嫌われてるのも知ってる。わかってる。でも、好き。」
俯いているせいでここからじゃあ表情が見えないけれどきっと大きな瞳から大きな涙をパタパタと落としているのだろう
そんなの。良くないよな。シーザーが笑ってるのが好きなのに。

「シーザー」
「いい。何も言わなくてもいい。わかってるから」
「ねぇ、」
「言ったろ?本人の口から言わたくないって断られるのもわかってるし」
「おい」
「もう帰るから。じゃ」
「シーザー!」
いっそう強くその名を呼ぶとビクっとしてその場にまたしゃがみ込む。顔は俺に向けられてはいるけれど、やっぱり見えにくい

「怪我人、無理させないでよ」
「自業自得だろ、スカタン」
そのやりとりだけで嬉しくて笑ってしまう
「あのね、別に嫌いじゃないよ」
「え…」
「中学の時はシーザーちゃんが俺の知らない男といるのみたりして、それがすげえ嫌でそれでモヤモヤしてたんだけど」
シーザーは黙って話を聞いている
「今思うと嫉妬してたのかなぁ。そいつにもシーザーにもね。」
時が流れると同時に、呪いのように明確に幼さを無くして女性らしく綺麗になっていくシーザーが怖くてたまらなかった
離れていくのが怖かった。それが今になってやっとわかった気がした

「じゃあ……もしかして、私の思い違いじゃなかったら」
「もしかしなくても、俺はシーザーが好き。」
あぁ、もう 横たわっているのが本当にまどろっこしい。今どんな顔をしているのか見てやりたいぜ
「……幸せにする」
「ちょ、シーザーちゃんイケメン!それ普通俺のセリフ!」
聞こえてきた言葉に堪らず噴き出す。きっと今彼女は真っ赤な顔をしている。
「あれだなーマスクしてるし右手も動かせないから、元気になるまでキスはできないけど我慢しててねン」
「うるさいバカ……」
にしし、と笑って返したところで急に眠気に襲われる。麻酔から覚めてからすぐ意識がはっきりしているのだから当然といえば当然かもしれない
「ごめん、シーザー…ちょっと寝かして。また明日でも会いに来て」
「もう少しだけいる」
「だーめ。おばさん心配するぜ?どうせ家飛び出してきたんだろ」
すりすりと左腕に頭をこすりつけて駄々をこねてくれるのは嬉しいが、さすがに心配はかけさせたくない。
渋々といったかんじで立ち上がったシーザーの顔は朱く染まっていて目もまだ涙ぐんでいる気がする
「ほら、泣いてたら可愛い顔台無しよ?俺の母さんに送ってもらうかなんかして気を付けて」
「………」
じっと見つめたまま動かないと思ったらすっと顔が近づけられる
額にほんの少しだけ柔らかさと温かさを感じて何が起きたか理解したのは離れたシーザーと目があってからだ

ええと、今あなた

「シーザーちゃん今もしかしてチュ」
「うるさい黙れそのまま寝て朝まで起きなくていい」
あら、随分とひどいことおっしゃるのね。それでも『永遠に起きなくていい』とかじゃないあたりに愛を感じるぜ!
そのまま立ち上がってツカツカと病室を出ていこうとするから呼び止める
「シーザー」
呼ぶと立ち止まって振り返る。その不機嫌な顔も照れ隠しなのがわかってるから可愛くてしょうがない

「……なんだ」
「明日も会いたいな」
「っ………気が向いたら!」
そう言い残して音を立てて扉をあけて、また音を立てて扉は閉まる ヒールの音が遠ざかっていく
ふぅとため息をついて瞼を閉じる


雨の音が聞こえないから、きっと雨は止んでいるだろう
明日になればまた会えるのだ。約三年分の話をしなきゃいけないし聞かないといけない
陽の光が燦々と降る中を少しだけ恥ずかしそうに病室に入ってくる恋人に思いを馳せて眠りについた




愛、燦々

-Fin-

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多分わかる人はタイトルの元ネタわかっちゃうね!
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