イタリア

空はどこまでも青く地平線に近づくにつれ白さをまして海と混ざり溶け合いその境目はわからなくなる
イタリアの街とその向こうにある海と空を見渡せる丘の上 ザワザワと音を立てて緑が揺れるその墓地にジョセフ・ジョースターは立っていた
目的地は今は亡き戦友 シーザー・A・ツェッペリの墓である

「よう、シーザー」
久しぶりじゃのう とジョセフは座りながら挨拶をする
前ここに来たのはいつだろうか
最初に来たのは柱の男との闘いに勝ち抜き アメリカに戻ってきたあと。シーザーがいなくなった後なにがあったかという事 伝えておきたいこと 結婚の報告を兼ねて長い時間ここに居座ったと思う
次に来たのは娘が産まれた時だ
自分と妻ににて可愛い子だと お前が叶えられなかった夢を俺が叶えたいと
その次は孫ができた時だ
可愛い娘が日本人の男にとられた それでも孫が可愛くてしょうがないと怒ったりデレデレしながら過ごした気がする

それを最後に来ていなかった。
心のどこかで彼がいないことを認めたくなかったのかもしれない
ジョセフが波紋の呼吸を止めたのもこの時である
波紋使いではない妻とはどうしても過ごしていく上で目に見えて差が生じる
年相応の老い方をしていく妻に比べて自分の見た目はどうしても若かった
二人で同じように歳を重ねていきたいと そんな想いからやめたのだ

「すまんのう 全然顔を出してやれんで。スージーQはよく来てくれていたんじゃろう」

だから50年経った今でも 通うには少々きついこの場所にある墓石 ーシーザーの場所は綺麗に保たれているのだと思った

「まぁ、仕事も忙しいし孫ができてからそんな暇なかったしのう」
ハハハ、と笑う
そうして直ぐに真面目な顔になりジョセフは一呼吸置いて語り出す

「シーザー」
そう呼び掛けても返事は来ない

「DIOが、目覚めたんだ」
静かに 自分にも言い聞かせるように

「ホリィから電話があって、承太郎に何か異変が起きているから、助けてくれないかと言われたよ」

「多分、幽波紋が現れたんじゃあないかと思っている」
そうして自分の足元に視線を落とす
自分にも少し前から幽波紋が現れた 自分に現れているということは孫である承太郎にもいつかは何かあるんじゃないかと思っていた

「きっと、またなにか始まるんだ 柱の男とは違う、おじいちゃんの時の闘いがまた始まるんだ」
事の始まりとなった 祖父ジョナサンの時の闘い 一度は幕を下ろしたがそんなことで大人しくなる相手じゃないのだ

「だから、俺はもうやめようと思ったけれど波紋の呼吸をもう一度始めようと思う
今度は俺の闘いだから、一緒に闘ってくれなんて言わない。俺の力で家族を、承太郎を守りたい。それでも、」
そこで一度言葉を区切り目の前の墓石ー親友に視線を上げる

「見守ってくれ、シーザー……!!」


応えはない。それでも応えているようにザァ…と一層強く風で木々が鳴く

「もうあの時のガキの俺じゃあない。ちゃんと守りたいものがある。だから、俺が馬鹿やらないように見守ってくれよ」

心から願うように言葉を吐く 喋り方が若い時の荒さがある口調に戻っていることを自身で気づいていなかった


目を閉じる 体全体で風を受ける 爽やかな涼しさに身を任せる
風が止む 目を開いて右手拳を前に突き出す もう拳をぶつけ返してくれる相手はいないけど 大丈夫だ

「…」
フゥと息をついて目が穏やかさを取り戻す

「これから日本に行ってくる。またしばらく来ないけど元気でな。」
死んだ人間に元気でというのも変だけど いつも締めくくりはこうだ。
元気でやっていないとこっちが困るのだ

きっと日本から戻ってきても来ることはないだろう なにかない限りは

「じゃあな」
そう呟いて振り向き歩き出す

呼吸を一つ、二つと繰り返す あの時の感覚が戻ってくるような気がした

その背中を押すように風が吹く
イタリアの海は静かに空と溶け合い
街にはどこかで子供が作ったのであろうシャボン玉が高く昇る


大丈夫、頑張れる

どこからか聞こえたような気もするし 自分でつぶやいたものかもしれない 又はどちらでもないただの気のせいかもしれないけれど
その一言でなんとでもなるような気にジョセフ・ジョースターはなっていたのだ







そうして世界は回り出す -Fin -
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