『ご飯にしよう』



10月も終りに近づいたある日の深夜
夏は度が過ぎるほどに暑いのに一気に秋なんてなかったんじゃないかというくらいの早さで冬になって寒くなるんだから
そろそろ日本も四季じゃなくて3季2季になるんだろうな
まぁそれはいいからさっさと帰ってこたつに潜り込んでしまいたい

そんなことを考えながら背中に三味線の入ったケースを背負ったまま志摩金造は京都の夜を家を目指して走っていた


バンドの練習で帰りが遅くなったのだ。明日は仕事も休みだから特に差し障りはないが何よりも寒かった
寒かったから一分一秒でも早く帰ってしまいたかった。

「あー……そういえば飯食ってないなぁ………何か残ってるやろか……」

そう呟くのと同時に吐かれた白い息が消えてく

お腹すいたな 寒いな 誰か起きてるかな いや、皆寝てるだろうな

そんなことを悶々と考えていると気づけば家の近くに来ていた
更に速度を上げて家を目指す

鞄をあさって鍵を探す…………あった

「ただいまー………」

ガラガラと引き戸を引くと思ってたとおり電気はついておらず人の気配もしなかった
静かにもう一度ガラガラと扉を閉めて鍵をかける


「おかえり」
「え、うおっ!!」

いきなり背後から声をかけられるからアホみたいな声が出た
誰もいないと思っていたのに振り向いたらそこに兄がたっていた


「なんやねんそれ………アホみたいな声出しおって」
「そりゃびっくりするやろし!!っていうか誰がアホやねん!!!」
「この場にお前以外おらへんやろ。つか、あんまでかい声だすなや。何時や思っとんのや」
「だ、誰のせいやねん………」

自分は何も悪くないと思う いきなり後ろにたっていた兄が悪い

そう思ったが今何を言っても駄目な気がした。
そもそも昔からこの兄に勝てるわけもなかったし勝とうとおもわなかった
それだけ自分の適わない相手なのだ


「疲れた……なんか一気にきた……」
「飯は」
「食ってないわ………てか何遅くに起きてんの……明日仕事やろ確か」
「そう思って待っててやったちゅうに、なんやその態度は」

項垂れていた首を起こす 呆れた顔の兄と目があった

「……待ってたん 」
「ん、おう 帰り遅いからもう少し遅かったら先に食ったろ思ってたわ」
「………」

自分が帰ってくるのを待っていたらしい 食事もせずに
それが嬉しくて黙ってしまった


「ほら、いつまで突っ立っとんのや。中入れや」
「え、あ、おう」

慌てて靴を脱ぎ捨てて兄の後ろをついていく






「座っとき どーせ寒くて走ってきたんやろ」
「………おっしゃるとーりで」

反論もできずにそう返すとケラケラと笑われる
そのまま台所に消えていくから言い返せず大人しく炬燵に潜る。あたたかい。
テレビをつけて急いで音量を下げる
そのままチャンネルをパッパッと変えていくが特に気をひかれる番組はなかったため電源をきる

ブツン

「あれ、テレビけしたん」
「せやかて何もやっとらんし」
「まあ夜遅いしなぁ。ほら」
「ん」

ごとりと机に置かれたものを見る

「ちゃんぽん……」
「誰かさんが食いたい食いたいうるさいからオカンが作ってくれたのにその張本人がおらんから
オカンちょっと機嫌悪かった」
「………」

寒いからずっと食べたいなって考えてたなーなんて思い出す。
朝になったら母にお礼言わなきゃななんて思って姿勢を正す

「柔兄」
「何」
「……ありがとう」
「は 何がや」
「待っててくれたから」
「別に気にせんとき。俺が勝手に待ってただけやし」
「……おん」
「ほれ、手ェ合せ」


兄に促されてパンと手を合わせる
少し間があいてどちらからともなく


「「いただきます」」















『ご飯にしよう』




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私かちゃんぽん食べたいだけです



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