ジョセフのところにお見舞いに行ってから一週間経った
結局あの後出かけることはなかった。放課後はそれぞれでやることがあるし文化祭が近いのもあってジョセフはいっそう忙しそうにしていた
だから最近はあまり会う機会がなくなっていた。部活とは別にクラスの出しもののことでも走り回っているようだ

ので、ちょっと話をしたら帰ろうと思って今シーザーは美術室の前にいる

「……」
なんだか緊張する。落ち着かない。
少し会えないだけで―寂しいわけじゃないけど―変な気分になってそわそわしてしまうのが嫌で来てしまった。
少しだけ顔が見たくて、見れたらそれで満足すると思ったのだ

しかし、なんと 言い訳したらいいだろう。部員でもないしちょこちょこやってくるのとおかしい。どうしたものかと考える
考えてひとつのプランが出来上がる

扉を開けるとそこには忙しそうにしているジョセフ。シーザーを見て驚いている
「あっれー?シーザーちゃんじゃん。どったの?」
「いやーお前がサボっているんじゃあないかと思ってわざわざ来てやったのさ」
「もー!そんなわけ無いだろ!いやあねぇ!」
「だよなあ!アッハッハッハ」

……………

これだ!と納得してつい拳を握る。ここまでの間に0.5秒である
確実にそれじゃないだろという冷静さは珍しく無く、シーザーは引き扉をガラガラとあける。

が、予想外にもジョセフはいなかった。というか人がいない
美術室はがらんとしており、ジョセフ以外の部員も誰もいない。

「部活動はないのか……?」
いや、そんなはずはない。文化祭前は部活動が通常ならない日も活動していいという許可はでているし、そうでなくても今日は活動日のはずだ
なら何処に、と思いながら静かに扉を閉めて美術室の中をゆっくりと歩く

いつものように教室の後ろに下げられた机 綺麗にされた黒板 まだ弱まる気配はない太陽の光が降り注いで床とシンクは輝いている
どうしたものかと思っているとガラガラと扉の開く音がして振り返る
「ジョ…」
探しいていた人物かと思ったがはずれだった。
そこにいたのは金髪を頭の上でお団子にして赤い花の飾りが可愛らしい女生徒が立って大きな目をパチクリとしている

普段から女性を放っておけないシーザーはいつもの如く話しかけようと歩を進めると

「oh Jesus…」

と女生徒は小さく呟いた。あれ、俺これ知ってる気がする。
嫌な予感は的中して女生徒はつかつかと歩み寄ってきて自分よりも大きなシーザーの手をガッシリと包み込み真剣な顔でこう言った

「貴方!モデルやる気はないかしら!」

ほらぁーーーーッ!!!やっぱりー!!!

「いや、えっとあの」
ダメだとわかっていてもとりあえず抗議はしてみるがやはり意味はない
「金糸みたいにキラキラとした金髪……深い海を写し込んだようなエメラルドグリーンの瞳……端正な顔立ち!良いわ!すごくいい!お願い!絵のモデルやってくれないかしら!」
あー今度は絵のモデルなんだなーとか現実逃避を始めた自分の頭はもう働かない。というか疲れきってしまった
どうしようかと思っていると女生徒の頭に軽いチョップが落とされる
「あたっ」
「こーら、スージーQシーザーに迷惑かけんなよ」
「ジョジョ!」
スージーQというらしい女生徒が振り返ると呆れた顔でジョセフが立っていた

いや、お前が言えたことじゃないけどなそれ。

とにかく会えたのだから結果オーライだ。という事にしておく
「ところでシーザーは何してんの?」
「あ、いやーえぇと……ジョジョのアホがさぼってないか確認しに来てやったんだよ」
計画とはなんとなくずれてはいるけど考えていた言い訳をしてフン、と息をつく
「にゃにを〜!俺だってやるときはちゃんとやるっちゅーの!」
「ねぇ、ジョジョ この人があなたの話してたシーザーなの?」
唇を尖らせて拗ねるジョセフを気にせずにスージーQは問いかける。
「ん、おお。そうそうこの際だし紹介しちまうかね。こいつはシーザー リサリサの紹介で知り合ったんだ」
「シーザー・A・ツェペリだ。3年だよろしくな…えぇと」
「あっ私はスージーQ!私も三年だけれど……なんであなたのこと知らなかったのかしら?」
「君は何組だい?」
「私?私はC組だけど………あぁ!」
納得したらしいスージーQはポンと手を打つ
三年生はAかGまで7クラス、そこに特進クラスのHを加えた計8クラスで構成されている。
あろうことか学年で見てもトップ10に食い込むほどの学力のシーザーはHクラスなので、C組とはほぼ真逆の位置に教室がある。
「つまり、知らないのもおかしくないのさ」
「なるほどねぇ……でもこんなにカッコイイんだから噂になってもおかしくないと思うわ」
「その点で言ったら俺だって君のことは知らなかったさ。こんなに可愛らしい女性がいたなんて」
「あら、シーザーったら上手いんだからもう!」
照れながらシーザーを叩く仕草をするスージーQに笑い返していると不満そうな顔をしたジョセフが割って入る

「はいはーい、お喋りはそこまで!ほらスージーQ早く持ってくぞ」
「そういえば、なんでお前たち今日はここで活動じゃないんだ?」
疑問を思い出して問うとすぐに返答はかえってくる
「今日は講堂にかざる展示作ってるの。ほら、毎年文化祭の時は講堂のステージに大きな壁絵が飾ってあるでしょ?あれをやってるの」
「なるほど」
「そ、んでもう仕上げに入ってきてるから講堂で作業なの。俺達は足りない絵の具をもちに来ましたァン」
まだどこか不機嫌なジョセフは早くしよーぜと言いながら室内に入る

ところで放送スピーカーからノイズの音がする

『一年ジョセフ・ジョースター!至急職員室ディオ・ブランドーのところまできなさい!繰り返す!一年ジョセフ・ジョースター!至急職員室のディオ・ブランドーの所まで来なさい!三分以内に来いよこのアホがっ!!!』

ガガッとノイズが聞こえて放送は止む 放送をかけていたのは世界史のディオ・ブランドーだった

「……何したんだお前」
「えぇー……覚えがないんだけどぉ」
「また何かしたの?」
「またとかいうなよ!なんだっけなぁ……あ」
悩みこんでいたジョセフは思い出したように顔を上げる
「あれかな。提出のプリントにある人物写真に落書きしたの」
「それだけであんな放送かける?何描いたの?」
「ジョナ兄に見せてもらった学生時代のディオの服」
「「はよ行け!!!! 」」

ディオと幼馴染みであるジョセフの兄ジョナサンのことをディオは多少嫌っているところがあるし、過去の自分のことも嫌いなようなのでこんな形で黒歴史を持ってこられたらあんな怒り方もするだろう。

シーザーとスージーQにどやされて走ってジョセフは職員室に向かう。もう2分は経っているから三分は間に合わないだろうなぁ。
どうしたものかと考えているとスージーQが先に口を開いた
「ね、棚の上の方に絵の具の箱があるのだけど、手伝ってくれない?」
「あぁ、勿論さ」
特に断る理由もなく承諾するとありがと、と笑うスージーQの後ろをついて棚に向かう

「スージーQとジョジョは前から知り合ってたのか?随分慣れ親しんでいるが」
「ううん。知り合ったのはジョジョが入部してからだけどぉ何となく気が合うから仲良くなってたわね」
「そうか…」
言われた言葉に何かが引っかかってしょうがない。二人が仲いいことが嫌なようじゃないか

「ねぇ、シーザーは好きな人とかいないの?」
「え」
突然の質問に言葉が詰まる。ここの上よ、と指定された棚を見る。余裕で届きそうな高さだ

「そういうスージーQは、いないのか?」
箱に手をかける。落ちてこないようにゆっくり下ろす
「ふられちゃった」
「こんな可愛らしい女性をふるなんてどこの馬鹿だろうな」
「ジョジョなんだけどね」
箱をおろし終えたところで止まってしまう。 何だって?
「ジョジョに?」
「好きな人がいるんだって」
その表情は笑っているけど切ないような目をしていた
スージーQをふったことよりも、気になっているのが『好きな人』についてであることに気づいていなかった
「どんな人なの?って聞いたら とにかく大事にしたいんだって言ってたわ」
「そうか……」
気付くと空は曇っていて今にも降り出しそうだ。
ジョジョの想い人 大事にしたい
それが誰なのかわからない事に対してぐるぐると自分の中で何か渦を巻いている 何だ​何なんだ

「だからね、シーザー」
ふと名前を呼ばれて目を向けると少し悪戯っぽくスージーQは笑っていた

「早くしないと、取られちゃうわよ」

言われた言葉の意味がわからなかった

誰が。誰に

「な、何を言ってるんだスージーQ」
「あら、シーザーはジョジョが好きなんだとばっかり思ってた」
誤魔化すようにおどけてみたがお構いなしにスージーQは続ける
「今日来たのだって会いたかったからきたんじゃない?」
「それは……」
言いかけて言葉に詰まる

顔が見たかったのは否定しない。話をしたいと思ったのも当たっている
ただ、それは友達だから会えないのが寂しいと思っていた

でも、もしそれが好きだったからだとしたら。さっきから感じる違和感や感情がそれから来るものだとしたら

自分は

「俺は、どうしたらいいんだろう」

スージーQはシーザーの小さな疑問に応える

「さぁ?それはシーザーが見つけなくっちゃね」

応えてはいるけどそれは『答え』ではないのだ。
自分でどうにかしろと、言っている


黒く曇りきった空はとうとうぽつぽつと泣き始める
そうしてあっという間に土砂降りになって止む気配はない。

自分はどうするのだろう。どうしたいのか。

その答えは結局導き出されぬまま

雨が、止まない





『雨が止まない』-Fin-

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最近ねるのが三時とかになっちゃって辛い。
次で終わるよ!
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