「週末、お茶でもどうよ」

いきなりの提案に驚きはしたものの、特に断る理由もないし普通に嬉しかったので承諾をした。

「じゃあ、今度は今回みたいなことが起きねえように連絡先交換しないとなあ?」
「うぐっ……反省してます…」
「はは、冗談だよ。ほら、赤外線使えるか?」

申し訳なさそうに目線をそらすジョセフに笑いながら携帯を開く

「あーシーザーちゃんのそれ新機種だろ?いいなぁ」
「変えたきゃ変えたらいいじゃないか」
「だって二年以上使わないと機種変に金かかるからさぁ…」
「じゃああと二年我慢だな。送るぞ」

他愛もない会話をしながらデータ送信の項目をタッチして開始する




昼休みが終わる前にそれぞれ教室に戻る。 一年は二階、三年は四階なので階段で別れる
シーザーが教室に戻って席についた―席の並びは元に戻ってそのまま放置しておいた昼食は袋に入って置いてあったので、多分マルクがやってくれたのだろう―タイミングでマナーモードに設定した携帯が規則正しいリズムで震える 送り主はジョセフ・ジョースターだ



title:無題
text:行き先とか任せるから
シーザーちゃんが行きたいお店とかあったら決めちゃってねンv(^o^)

本人らしい文章に苦笑して一旦携帯を閉じる。
授業開始まであと10分。どこに行こうかと考えながらシーザーは昼食を食べ始めた


で、それが三日前の話だ。
そういえばパスタが美味しい店があったなぁと思ってそこを指定した
近くにショッピングモールがあって映画館やらCDショップやら服屋やらあるからもし食事のあとで遊ぶことになったらちょうどいいかと思ってそこにしたのだ。

「じゃあ駅前に10時な!」
「あぁ、じゃあ10時に」
そう約束もした。そのとおりになると思っていた 10時に駅前で合流するんだろうと。

なのに。なんで
「……」
「もーしわけございません……」

なんで俺はコイツの家の玄関ビニール袋片手にいるのか。しかも土下座する家主を前にして


『ミルクパズル』

「いやぁもうこんなピンポイトなタイミングで風邪ひくなんて思ってもなくて………っきし」
「あー!もういいからいつまでも冷たい床に座ってんじゃあねぇ!中は入れ中!冷蔵庫いじるぞいいな!」
スウェットの袖で鼻をこすっているジョセフを中に追いやってそのまま自分も転がり込む

事の発端は約一時間前に遡る


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今日は朝から天気が良かった テレビでは梅雨入りのニュースばかりなのに、そんなの関係ないかのような青空だった
シーザーは約束の15分前には駅にいた 少し余裕を持ってきてしまうのはもう馴染んでしまった癖であって遅れてくるより全然いいと思っていた
持ってきていた小説をパラパラと捲りながらジョセフが来るのを待っていた


10時をすぎてもこなかった
少し遅れてるのかもしれないと気にせず待っていたが乗る予定だった電車が出てしまう10:16になっても来なかった。
多少イライラしはじめていたがそこから更に20分ほど待っても来ないのでさすがに何かあったのかと心配になって電話をしようかと携帯を取り出したタイミングで着信が入る 相手はジョセフ・ジョースターになっている

ほぼ反射的に電話に出る

「おいジョジョ、お前なんでこな……」
自分の声を遮るように聞こえた声は、なんというか
「シィーザー……」
「…ん?」

今にも死にそうだった

風邪をひいたことを告げられた
今起きたところだということ 頭が痛いこと 一人暮らしなので何かしようにもできないこと それから空腹だということ
「お前なぁ……」
正確にはジョセフはそこまで悪くない。ちょうど風邪をひいたのが今日だっただけで
それでも呆れていた 皺がよっている気がして眉間をつい触る
「ごめんなぁ……腹減った…だりぃ」
「………なんなら食える」
「え、来てくれんの?」
「いいから!なんなら食えんだよ!」
「えっあーえっと…うどんとか?」
「わかった。じゃあ今から買い物したらそっち行くから住所書いてメール送っとけ!あと熱計れよ!俺が行くまで動くんじゃあないぜ!」
言うことだけ言って通話を切る なにか言っていた気もするがどうでもいい。
人の多いところでいきなり怒鳴り声を上げるから何事かと何人かに見られていたがそれにも気づかずに足早に歩き出す

くそ!なんで俺がこんなこと!

そう思ったがどうしてもほっておけない
つまるところ、シーザーは根っからのお兄ちゃん気質なのだ




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ジョセフの住んでいるところは学校から少し離れたマンションだった。 確か学校の寮案内のパンフレットに載っていた気がする
少しばかり年月がたっていたがそれでも綺麗な五階建てのマンションだった
メールにあったとおりに304を目指して階段を上がる エレベーターを使う気にはならなかった
開いてるのはわかってたがチャイムを鳴らして扉を開けると土下座しているジョセフが待っていた ここで冒頭に戻る

「なんのお構いもできませんで…」
紺色のスウエットの袖で鼻をこするジョセフは寝癖もそのままに確かに少し顔が赤かった
「病人は大人しく寝てればいいんだよ。冷蔵庫に買ってきたもん入れとくぞー。」
そういいながら玄関からそのまま続く廊下にあるシンク横の冷蔵庫を自分の家のような扱いであける
「うどんとネギとあとポカリとプリンとゼリーが1つずつな。あ、やっぱネギ買ってきて良かったな。」
そこで一度立ちたがって上段の冷凍庫に氷をひと袋つっこむ。もうひとつの袋を片手に部屋に入る
「氷枕は」
「多分ねーそこの棚の下だな。その電話おいてある棚」
そう言って指さす方を見ると確かに電話の置かれた小さな棚があった 開けると未開封の氷枕の袋がある
枕に氷を目一杯入れて水をたして口を閉じる。ベランダに通じる窓際に詰んである洗濯物からタオルを引っ張りだして巻く
ジョセフは布団に潜り込んで楽しそうにシーザーの行動を見ていた
「シーザー母ちゃんみたいだな」
「うっせ。ほら頭上げろ」
頭をあげたところに氷枕を置く
「熱は」
「なかった!」
「何度だったと聞いてるんだかなぁ?」
「……8度」
あっさり嘘ついてんじゃねえよ……
はぁと溜息をつきながらジョセフにま正面になる位置にあぐらをかく。ベッドの高さ的に目線が同じになる

「でも本当にごめん。」
「別にきにしてない。いいから寝とけ。飯できたら起こすから」
「おー」
そこまで話してなんとなく部屋をぐるりと見回す
一人暮らしを初めて二ヶ月三ヶ月の部屋はそこそこに散らかっていたしそこそこに片付いていた
小さな衣装ケースの上に置かれた小さい薄型テレビの周りには本やら漫画やらCDが積んである
その横には本棚と大小様々なキャンバスがしまわれている大きめの棚それから積まれたまま片付いていない洗濯物
あと テーブルの上のパズル
「あ、見てもいいよ。あんま面白くもねーけど」
そう言われて近づいてみる アクリル絵の具と筆とパレット。散らばったパズルは色のついたものとついていない物。ついている色は統一性のない様々な色だ。それからパズルの仕舞われていたのであろう箱には「milk puzzle 1000piece」と書かれていて真っ白なパズルの絵が載っている……ミルクパズル?
ミルクパズル自体は知っていた真っ白な絵の描かれていないパズルで絵がついていたらどこにこれは嵌るのかと予想できるがそれができないから難易度の高いパズルだ だがこれのおかしいのはそのうちの何枚かに色がついていることだ

「これ、ミルクパズルだろ?なんで色がついてるんだ?」
「あ、知ってたか。一枚一枚色塗りながらやってるの」
「なんでまた」
「そこに白いキャンバスがあったら絵にしたくなるのは芸術家の性なのよ〜」
おどけたように言うジョセフになんていおうか困っているお構いなしに話し始める。
「いやーね?白いものがあったら絵にしたいってのはホント。でもよ、完成したのに絵を描いたんじゃ面白くないだろ?完成図が見えてるんだから。でも一枚一枚考えずに色をつけて組み立てたら何ができるかわからないから楽しいじゃん。海になるかもしれない。空になるかもしれない。街の絵になるかもしれないし、もしかしたら誰かに似ているかもしれないし。先が見えないってさ」
楽しいよな と続けて楽しそうに笑うジョセフはいつものジョセフだ。顔が赤いのとベッドに横になってるのを除いたら

そうかそんな考えもあるのか
そう思ってもう一度パズルに目を向ける一番埋めやすいであろう枠になる部分は出来上がっていて全体的に青や緑に統一されている。
ここから何ができるんだろう。海かもしれない空かもしれない 何もできないかもしれない。
自分が作るわけではないけど少しワクワクしていた

「まぁそれできるのはもう少し先かな できたら文化祭の展示に出すのもありだなって」
「楽しみだな」
ついそう呟いてハッとしたらジョセフがいたずらを思いついたようにニヤニヤしている。しまった。
「いやーん…もうシーザーちゃんすっかり俺のファンなんだからァ…」
「うっせーよ!あとちゃん付やめろよ!」
それにと付け加えて恥ずかしさから目線をそらして続ける
「お前が作り出したものは暖かみとか懐かしさがあって見てて落ち着くんだよ。だから好きだしできるなら出来上がりまでの行程も見ていたい。こんな熱心なファンいねーだろ?感謝して欲しいところだぜ」
またなにか言われるかと目線をちらと向けると以外にもジョセフは固まっていた さっきより顔が赤いような気がする
「おい、ジョジョ?」
「シーザーちゃんわざと?無意識ならホントにそういうところさぁ…」
「は?何」
後半に行くに連れて声が小さくなる。完璧に最後は聞き取れなかった
「なーんでもない、腹減ったなぁ」
「え、あ!悪いな。うどんで良いか?」
「卵落としてくださぁーい」
「ガキか」
笑いながら立ち上がって廊下に向かう その時に頭をぐりぐりと撫で回してやった
だから、もう一度つぶやかれた言葉は聞こえなかった

「そういうとこホントずるいよな」





-Fin-


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書くに連れて美術要素が減る謎
きっとプリンとゼリーは二人で食べるんだよ。
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