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その1:赤ずきんと狼

「シーザー」
その日シーザーが部屋で本を読んでいるとジャイロお兄さんによばれました
「なんだい兄さん」
「急で悪いんだがな、森に住んでるウィルじいさんのところにお見舞いに行ってくれ」
「見舞い?じいさんまたどこか悪いのか」
「まぁ、ちょっとな。ほら、このカゴにぶどう酒とパンが入っているから。」
カゴを受け取ると確かにその中には黒ガラスの瓶と包装紙に包まれたパンが入っていました。
シーザーの住んでいる森の、更に奥の大きなおうちにおじいさんは住んでいました。少し前に体を壊してから寝込んでいるみたいです。
「あぁ。いってくるよ」
「悪いな。あと、森にいる狼に気を付けろよ。寄り道はするな。いいな?」
「わかってるって。もう子供じゃあないんだぜ」
得意げにシーザーはそう言いますがジャイロお兄さんにはまだまだ子供に見えました。
それをいうと、とても気分を悪くするので口にはしませんが。
「じゃあ、よろしくな。」
「あぁ。」
シーザーは一度自分の部屋に戻りしたくを始めます。
今日はとてもいい天気なので暑くて気分が悪くならないように、そしてまんがいち夜まで帰れずに寒い思いをしないために赤より少し黒い色をした上着を着ていつものバンダナはお守り替わりに手首に巻いて家を出ました。

「いってきます。」
「あぁ、気を付けてな」
ジャイロお兄さんに見送られてシーザーは歩きだします。
シーザーが家を出ると庭があり、その先に森に続く道があります。一本道の終わりの終わりにおじいさんのおうちはあります

「今日は、暑いなぁ」
日差しに目を細めてからシーザーは上着のフードをすっぽりと被り歩きだしました。


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森の中を歩くのは誰でしょう。
190cmはあるだろう大きな体とエメラルドのような瞳。
形の良い唇を尖らせてでたらめなメロディーを口ずさみます。
大きな耳はピン、とたって長いしっぽをふわふわと揺らしながら歩きます。
そう、彼は狼です。
彼の名はジョセフといいました。
「暇だなぁ。こんだけ暇だとはっぴーな出来事が欲しくなるぜ」
何かないかなとふらふらと先程から森の中を散歩しています。
暇だといいつつもジョセフはいろんなものに気を惹かれます
キラキラと光ながら流れる小川、木々が揺れる度に姿を変える木漏れ日。
どこからか聞こえる鳥の歌声。花畑や、その隅にちょこんとできる木苺
彼にはどんなものも魅力的に見えました。

「子鹿を追いかけて遊ぶのにも飽きちまったし、森をテキトーに歩いてみるのも飽きたなぁ」
どうしたものか、と思っているとふと視界の隅になにか光るものが写ります
「……!!」
そこにいたのは赤より少し黒い色の上着を着た人間でした。手にはカゴが持たれていて、風に乗ってやってきた香りからしてぶどう酒でしたがそんなことより気になったのは、フードのしたから覗いた金色の髪でした。
「ふぅん、この先にあるのはツェペリのじいさんの家くらいだ。ということは、孫か子供だな。聞いた話では二人孫がいて、子供がいるなんて聞いちゃいねぇ。それでそのどっちも男だったはずだ。森でいつも見るのは髪の長いやつだからあれは、弟かな。」
この森の先にツェペリのおじいさんが住んでいることは森の住民みんな知っていることです。森の動物たちに優しくて有名なおじいさんでした。
ツェペリのおじいさんに孫がいることも、それが男の子なのも噂できいたことですし、いつも見る髪の長い男の人がその一人だというのも予想ですがそんなことは二の次で、ジョセフは目の前の男の子が気になりました。

「…ターゲット、ロックオンってことね。」

ジョセフは耳としっぽをしまいこんでから歩きだしました。

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「いい気分だなぁ」
木漏れ日がキラキラとして風がとても気持ち良い。それがとても嬉しくて独り言が漏れます。
「兄さんは寄り道するななんて言ったけれど、こんなに天気が良かったら寄り道ぐらいしたくなるってもんだよな。」
少しばかりシーザーの心は好奇心に埋め尽くされていました。
基本あまり家からでないシーザーはいつもジャイロお兄さんから聞いては森に思いを馳せていました。
森の中を楽しげに走りまわる動物、ざわざわとなる木々。
光に照らされる湖。花が咲いて周りは暗いのにそこだけは別世界のように明るい花畑
聞く度にいつか行ってみるんだと思っていました。
そして今日が念願の初めての森でした。
「少しだけ、少しだけならいいだろうか。」
でも、遅れたらじいさんが心配するかもなぁと思って諦めようとしたそのときに、
「少しだけならイイんじゃあないのォ〜?」
どこからか声が聞こえてあたりを見渡すと傍の木に寄りかかって男の子がたっています。
自分よりもいくらも高い身長のエメラルドのような瞳が印象的な男の子がニコニコとしています。
「なんなら、俺が遊んでやってもいいんだぜ?」
「…誰だ?」
「ジョセフ、ジョセフ・ジョースター!」
「ジョセフ・ジョースター……じゃあジョジョだな。俺はシーザー。シーザー・アントニオ・ツェペリ」
「よろしくなシーザー!」
ぴょん、と木から離れて近寄ってきたジョセフは嬉しそうにニコニコと笑います。
なんだかシーザーにはそのこどものような笑顔がとても魅力的に見えました。
「でも、お前みたいなコがここらへんにいるなんて聞いたことないぜ?」
「えっ、あぁ、えっと最近引っ越してきたんだ!それでここらへんいっぱい探検していろいろ見つけてんの!」
「へぇ」
つい返事がしどろもどろになりましたがシーザーは気づいていないらしく口元が嬉しそうに綻んでいます。
「だから、俺と遊ぼ!」
「でも、俺じいさんの見舞いに行かなきゃなんねえんだ。」
「森のことならわかるから、俺が連れてってあげる!」
「…じゃあ、少しだけ。」
「おう!」
ついてこいよと言うようにジョセフはシーザーの手を引いて森の中に入っていきました。
二人のその姿を見るものは誰もいませんでした。

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「っはぁ!疲れた!」
さんざん遊んだあとジョセフとシーザーは花畑に倒れ込みました。
クスクスと二人から笑いが漏れます。
「楽しかったなぁ!」
「あぁ!あれなんてすごかったな!あの、小鹿追いかけて遊んでさ!すっげえ楽しかったぜ!」
「だろ!ぴょんぴょん跳ねてスゲエ楽しい!」
「あんなに綺麗な川も初めて見た」
「あ、シーザーさ、木苺って食べたことある?」
「ない!」
「じゃあ待ってて!」
そういってジョセフはどこかに走っていってしまいました。
シーザーはごろん、と仰向けになります。
「気持ちいい」
鼻をくすぐる植物と風の香り目の前に広がる木々とお日様の光。
ジョセフのことを思います。
初めてあったジャイロお兄さん以外の男の子。同年代の男の子。
意志の強い瞳と、自由奔放に跳ねる髪の毛。大きな手
シーザーはジョセフのことをとても気に入っていました。

「……」

ふと、狼の話を思い出します。
そんなところにジョセフは戻ってきました。
「シーザー!これ食ってみて!」
ジョセフの手から転がり出たのは小粒の赤い実でした
「なんだ?これ」
「木苺!酸っぱくてうまいんだ!」
「へぇ……」
疑いもせずひとつパクリと口に放り込みます。
「……うまい!」
「だろぉ?」
へへ、と笑いながらジョセフも口に一つなげこみます
「なぁ、ジョジョはこんな森に住んでて大丈夫か?」
「何が?」
「狼とか…」
ジョセフの手がぴたりと止まります。
「狼?」
「そう、狼。森に迷い込んだ子供を食っちまうんだって。誘って騙して。悪い狼だって兄さんが言ってた」
「……そうか、初めて聞いた。」
「そっか。」
「シーザーは、狼のこと嫌いか?」
「え?」
「その話を聞いて狼が怖いか?狼が嫌いになるのか?」
ジョセフは眉を下げて今にも泣きそうな顔でシーザーに尋ねます。
「んー…」
シーザーはすこし考えてから話し始めます
「でも、きっと悪いだけじゃあないと思うんだ。遊びたくて、一人じゃあ寂しくて誘う狼もきっといるんだ!」
「……」
「そんな風にされたら、俺は嬉しくてついてっちまうかな。」
「それで、パクっといかれたら?」
「……その時はその時だろ」
「お前って割と世間知らず?」
「バカにすんなよ!それになんでお前がそんなこと気にするんだよ?」
「いや、なんとなく」
「お前は狼じゃあないんだし、そんなことしないだろ!」
笑顔でそんなことを言われてジョセフの胸はギュッと苦しくなりました。
本当は誘い出して遊んだら食べたしまおうかと思っていたのです。綺麗なこの男の子をとても気に入っていたから。
でも、なんだかそれがとても悪いことに思えてきました。
「そう、だよな」
「あぁ」
ジョセフは息を吐きます。
そしてシーザーの手を引いて立ち上がります
「シーザー、」


そろそろ、じいさんの所に行こうか


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ざわざわと、先程まであれほど眩しかった木々は真っ黒な大きな影に姿を変えてしまいました。
月明かりはあるものの、真っ暗な道を二人は無言で歩きます。きっとこんなに暗いのに一人じゃないと確信しているのは手をつないでいるから。
二人は道に迷っていました

「ジョジョ…」
「…」

シーザーがジョセフを呼んでも返事が帰ってきません。
「どうかしたのか?」
「まいったな。早くしねえと猟師が来ちまう」
「猟師?」
鉄砲で動物を撃って売ったり、食べたり。そういうことをお仕事にしている人たちだとシーザーは知っていました。
「あぁ。早くしねえと…」
「なら、その人達に道を聞けばいいじゃあねえか!」
「……」
立ち止まって振り返ったジョセフを見て少しだけドキリとしました。
それは身の凍えるような、とても冷たい感触でした。
どこか怪訝そうにこちらを向いたジョセフの目は月明かりのせいか赤く光っているような気がしました。
「…ダメだ。あいつらは国に認められた猟師じゃあなくて自分たちのためだけに動物を狩る不正猟師だ。だから、もし俺たちが動物と間違われたら撃ち殺されちまうかもしれねぇ」
「……そうか。」
なわとなく怒ったような声に小さく返事をするとぎゅ、と手が握り返されました。
「なぁんてね!大丈夫、もうすぐできっと帰れるから」
「…ああ」
大丈夫、と自分に言い聞かせてまた歩き出すとしばらくしてどこかでガサガサと音がしました
ジョセフがまさか、とつぶやいたような気もしました。

遠くに人影が見えます。その手には長い筒が持たれています
…まさか、そんな。
嫌な予感がしました。そしてその予感は当たります。出てきたのは猟師たちでした

「なんだお前らはッ!?」
「何って、俺らはじいさんのとこにお使いに行くただの子供だぜ」
「子供がこんな時間に出歩くわけがねぇ!まさかおめえたち狼だなッ!?」
「はぁ?おっさん達何言ってるわけ?なんならあんたらの方が怪しいよなぁ。もしかして、あんたたちの方が狼なんじゃあねえの?」
「とぼけるな!!俺たちは害獣を処理する役目があって…」
「こーんなガキ二人捕まえて何が役目だよ。おめえらあれだろ?不正猟師ってやつ?」

そういった瞬間男たちの顔が真っ青になりました。それからすぐに真っ赤になって怒鳴り始めます。
「うるさいッ!!」
こちらに銃口を向けてきます。シーザーが一歩後ろに下がるとジョセフは庇うように足を踏み直します。
はぁ、と息を吐いてから口を開きました。
「穏便に済ませるつもりだったんだけどなぁ」
ザワザワと木々が鳴きます。月の明かりが雲の間から現れて照らします。
それに答えるようにどこからか狼のようか息遣いが聞こえます。
どこから、というよりはとても近くから。
近くから、というよりは、目の前の男の子から

「ジョジョ…?」
呼んでもジョセフは反応を見せません。それよりも月に照らされて見えたのは2本のピンと立った耳と威嚇するように震え立つしっぽでした。
ふぅふぅと荒い息使いが聞こえます。ぐるぐると喉がなります
一度こちらを振り返ったジョセフの目は今度こそ真っ赤に光っていました。

「…てめえら、俺らに銃口向けてるってぇことは…自分たちに何があってもいいっていう覚悟があっての事だよなあぁッ!?」



響いたのは、狼の雄叫びでした。

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「……」
ことが終わるまでシーザーは何も話すことができませんでした。
目の前に広がる光景に足がすくんで動けませんでした。
猟師たちはもういません。そこには座り込んだ狼……ジョセフだけでした。

「ジョ、」
「ごめんな。」
シーザーの声を遮るようにジョセフが話し始めます。
「ごめんな、お前が言ってた狼は俺なんだ。正確には俺の一族はみんは狼だけど」
「……」
「騙してごめん。怖いよな、怒ってるよな…」
ジョセフは後から後から謝罪を繰り返します。
シーザーはジョセフが狼だったことに驚いてはいましたが恐怖も怒りもありませんでした。
それよりも、血だらけになりながら戦ってくれたことにとても感動していました。
「この先にほんとうにツェペリじいさんの家はある。もうあいつらもいないから一人でもいけると思う。」
「ジョジョ」
「じゃあ、一日ありがとう。楽しかった…」
ゆっくりとジョセフは立ち上がります。シーザーは反射的にその手を掴んでいました。
「何だよ」
「えっと……」
お礼もしたいしなんで黙ってたのかも聞きたい、いろんな気持ちが溢れてシーザーの言葉はつまります。
落ち着きをとりもどしてから最初に出た言葉は

「傷、手当てしてやるよ」

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ジョセフはぽかんとしてしまいました。
「は?」
「だから、傷の手当てしなきゃ。」
ぐ、っと腕を引っ張るとジョセフは何がなんだかわからない顔で座ります。
「手貸せ」
言われたとおりに手を差し出すとシーザーの白い手がぎゅ、と握ってきます。
それからシーザーが深呼吸を繰り返します。
「っ……?」
一瞬手がビリっとしたので見てみると微かにシーザーの腕からジョセフの手にかけてまでが暖かい光を放ちながらパチパチと音を立てて電気が弾けていました。体がじんわりと暖かくなって痛みも消えていきます。


「俺の一家はなんでこんな森に暮らしてると思う?」
「え?」
突然それまで無言だったシーザーがしゃべり始めます。
「こんな不便な森に住んでるのは、俺たちが厄介ものだからだ」
「やっかいもの?」
それがどんなものか知りませんでしたがシーザーの切なそうな顔からなんとなく良くないものの例えだと思いました。
「この力は波紋っていってな。もともとは悪魔を倒すために御先祖様は使ってたんだって。でも急にみんながこの力は良くないものだお前らは魔女だって囃し立てて、追い出されて、だから街なんて滅多にでないしこんな森にいるんだ」
「……」
「俺はお前が狼でも怖くないよ。さっきすげえかっこよかったじゃあねえか!守ってくれてありがとう。」
「怒って、ないのか?」
シーザーは笑いながらこくんと頷きました。なんだか心が締め付けられるように苦しくなってつい目の前にいるシーザーに抱きついていました。
「ごめん、ごめんな…」
「ありがとう。ジョジョ」
「シーザーちゃ、」
「ん?」
シーザーの顔を間近で見ながらジョセフは鼻をぐずぐすと言わせてから途切れ途切れにいいました
「シーザーちゃん、大好き」
「……ん」
シーザーがジョセフのおでこにキスをしてから照れくさくてクスクスと笑いました。


それから、二人はツェペリおじいさんのところに着いていままでのお話を全部しました。
冒険のことジョセフのこと。全部ツェペリおじいさんは嬉しそうに聞いてくれました。
それからジョセフのお兄さんが迎えにきてその日は一旦お別れしましたが。二人は毎日毎日遊びました。

「シーザー」
「ん?」
ジョセフに呼ばれてシーザーが振り返ると一度だけ短いキスをしてからジョセフが楽しそうに笑いました。
「このことだけは、秘密だぜ」
「……あぁ」


そんな幸せがいつまでもいつまでも続き
そうして二人は…………
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